2023年7月より開催した2023年度「県内語り部プロジェクト」におきましては、県内で伝承・防災活動を行っている団体や個人の皆様に多大なるお力添えをいただきながら開催を重ね、多くの方にご参加いただきました。厚く御礼を申し上げます。
今年度、登壇者の皆様からいただいた講話の内容をご紹介いたします。
女川町観光協会で語り部ガイドに取り組む阿部さんは、震災による一時退社ののち、観光協会の再建のため再度入社し被災地域のガイドをするに至った経緯や、職員として感じる震災後から復興に向かう町の変化、「千年後のいのちを守るために」と女川町で活動している中学生の取組についてお話しされました。女川町の人々が若い世代の考えや動きを町全体で取り入れていき、地域の活性化を図り災害に強いまちづくりを行っている様子を伺うことの出来る講話でした。
震災当時、山元町立山下中学校の校長だった渡邉さんは、避難所となった学校でその運営を取りまとめ、どのように避難所の自治を行っていったのかを日付を追いながら詳しくお話しされました。避難者の不安や不安を解消するために実施した活動や支援者が陥りやすいストレスに対する反応についてのお話しに加え、生きる力を育む防災教育の展開など、避難所を運営する側の視点と教員という立場からの視点の2つから得られた知見で、震災後の様々な取組みを知ることのできる講話となりました。
避難所の事務局長から支援のため被災地入りしたNGO団体の現地スタッフ、そして気仙沼市内の復興支援活動をサポートするNPO団体に移籍したという経歴をお持ちの三浦さん。支援者であり被災者という自身の立場から、伝承活動の苦悩や葛藤も含めて、被災の体験や地元の海岸を再生し海の見える町づくりのために奔走した経験をお話しくださいました。講話の終わりには、震災を経て、「生きる」ことの意味や人や社会の可能性に気付かされ、考え方の違いを乗り越える力が社会に必要であると参加者の方に訴えかけられました。
第4回/
8月19日開催 防災教育の市民団体ゆりあげかもめ 佐竹悦子さん
震災当時、港にほど近い閖上保育所で所長として勤務されていた佐竹さん。震災発生前から行っていた避難訓練について、実践と職員との振り返り、反省を踏まえたマニュアルの改訂を何度も繰り返した結果、園児54名と職員10名の命を守ることが出来たとお話しされました。佐竹さんは「偶然で奇跡は起きない」と、事前に想定を繰り返し、備えていたからこそ、実際に震災が起きても冷静に判断して行動することができたと語られ、親子連れをはじめとした参加者の方々もお話しを真剣に聞き入っている様子がありました。
南三陸町観光協会で防災プログラムなどの開催を行っている及川さんは、南三陸のまちづくりや、プログラムの実施内容と利用者の傾向について、これまでの成果や課題など、観光協会の震災後からこれまでの歩みを詳しく丁寧にお話しくださいました。また、昨年町内にオープンした伝承施設「南三陸311メモリアル」の取組みや展示のこと、今後の活動に関する展望についてもお話しいただき、南三陸町での伝承活動の現在地を深く知ることのできる講話となりました。
第6回/
9月16日開催 津波復興祈念資料館「閖上の記憶」 丹野祐子さん
津波で当時中学校1年生だった息子と義理の両親を亡くし、その後悔から語り部活動を始めた丹野さん。閖上中学校遺族会を立ち上げ、子どもたちの生きた証を残すための、慰霊碑の建立、伝承プログラムや講演会の開催、追悼のつどいなどの多岐に渡る活動を、様々な方から支援を受けながら続けてきたことをお話しになりました。「もう自分と同じ思いを誰にもしてほしくない」との思いで語り続けている丹野さんの姿に、参加者の方々も共感を持ってお話しを聞いてくださったようでした。
第7回/
10月14日開催 株式会社朝日海洋開発 安倍志摩子さん
震災前から、海難事故防止のための講習を行い、津波避難の紙芝居を読み聞かせして「津波が来たら高台へ」と子どもたちへ伝えていた安倍さん。しかし、震災当時、自身は避難をせず津波に巻き込まれてしまいました。その後悔から経験を語るようになったとお話しされ、また避難所では元保健師、看護師という立場から傷病者治療に当たられた際の対応や教訓についてもお話しされました。そして、安倍さんから講習で着衣泳を習った小学校の児童が、津波に流されながらも着衣泳を実践し助かった実例についてもお話しをくださいました。
第8回/
10月21日開催 けせんぬま震災伝承ネットワーク 菅原定志さん
菅原さんは震災当時、地元の気仙沼市からは離れた内陸部の中学校で教頭を務めており、現在はけせんぬま震災伝承ネットワークに所属し中高生の語り部活動をサポートされています。「地元のためになにもできていない」という負い目を感じながら、自分にできることを模索する中で「伝承者を育てる」という考えに至り、気仙沼市の中学校で校長を務めている時に「中学生語り部」ガイドを開始したとお話しくださいました。実際に活動に取り組んでいる学生の声を挙げながら、改めて新たな伝承者育成の重要性を訴えられました。
震災当時、東松士市消防団員として救助・捜索活動に当たられた齋藤さんは、自身の被災体験や活動の様子を生々しくお話しされました。小学校の体育館で津波に巻き込まれるも、九死に一生を得た斎藤さんですが、行方不明者の捜索で若者の遺体を発見した時に言い知れぬ虚しさや悲しさを感じたといいます。講話の最後には、「あなたが生きている今日は、あの日亡くなった人たちが生きたかった今日です」と、被災してから変化した自身の死生観も交えて参加者に語りかけられました。
ふらむ名取が発行する、閖上の今を発信する地域情報誌「閖上だより」編集長の格井さんは、これまで携わってきた地域コミュニティの再生へ向けた取り組みや伝承活動を中心に、被災後の閖上について詳しくお話しくださいました。自身も津波により自宅と両親を失う中で、地域での災害伝承や情報発信の重要性を認識し、防災意識の向上と未来の災害死ゼロを目標に掲げて様々な活動に励んでいる格井さんのお話しを、講話参加者の方々も真剣に聞いていらっしゃいました。
日和幼稚園遺族有志の会 佐藤美香さん/津波復興祈念資料館「閖上の記憶」 丹野祐子さん
県内語り部プロジェクトの特別企画として実施した「語り部トークセッション」。第一回目は共に震災で我が子を亡くし、現在語り部活動を行っているお二人、津波復興祈念資料館「閖上の記憶」丹野祐子さん、日和幼稚園遺族有志の会 佐藤美香さんをお招きし開催いたしました。以前から語り部活動を行っている同士として親交があったお二人と、当団体のスタッフ一名で、質問への回答と会話を中心に講話が進められました。活動に対して理解を得ることの難しさ、それでも語り続ける原動力となっている後悔や「繰り返されてほしくない」という思い、そして多くの人の支えがあったからこそ語り部として活動を続けてこられたことが、お二人のお話しの中で参加者の方々に伝えられました。
第12回/
12月16日開催 仙台市地域防災リーダーSBL 菅野澄枝さん
仙台市地域防災リーダー(SBL)岩切地区所属、せんだい女性防災リーダーネットワーク宮城野会員、そして消防庁防災意識向上プロジェクト語り部など、多種多様な防災・伝承活動に取り組んでいらっしゃる菅野さん。講話では、主に岩切地区のSBLの活動についてお話ししてくださいました。防災に携る活動をしている方の男女比率は一般的には男性の方が多い中で、岩切地区では女性メンバーの方が多く在籍しており、地域の女性たちと共に「岩切・女性たちの防災宣言」を作成したことが、自分の住む町を自らの手で守るための、地域女性の積極的な防災活動への参画につながっているとお話しされました。
第13回/
1月13日開催 わたりグリーンベルトプロジェクト 東聖史さん
東さんが代表理事を務めるわたりグリーンベルトプロジェクトは、津波によって大きく被害を受けた亘理町の海岸林を再生し、地域に根差した持続可能な植栽を管理・活用する取組みを行っています。講話の中では、自然現象によって環境が大きく変化する「自然攪乱」を災害というマイナスの面だけを取り上げるのではなく、より大きな時間的・空間的スケールの視点から様々な影響を見定めることが、自然と人間が上手く共生できる方法ではないかとお話しされました。そして、震災を経た現在、植樹や自然発生によって生まれた植栽をどのように活かし、育てていくかが重要であると語られました。
第14回/
1月20日開催 みやぎ東日本大震災津波伝承館解説員 阿部任さん
みやぎ東日本大震災津波伝承館で解説員を務め、地域での語り部も行っている阿部さんは、「失敗例だった」と語る自身の被災体験を震災を知らない若い世代に伝えることで、教訓の伝承・継承活動に興味を持ってもらい、語り部が「なりたい職業」とされることを目標に活動を行っています。自身と祖母の救出が奇跡と謳われ、報道されることに対する困惑と疑問、しかしメディア側にも葛藤があったと知ったことや、若者として伝承活動に携わる中での困難と周りの後押し、現在取り組んでいる活動の中で連携している方々の紹介など、被災してから様々な関わり合いがあったことで、現在の目標に至り活動を続けていることを深く知ることのできる講話となりました。
一般社団法人 健太いのちの教室 田村孝行さん/
南三陸まちづくりプラットフォーム 伊藤俊さん
特別企画「語り部トークセッション」第二回は、共に地域や企業での防災活動推進に取り組む一般社団法人 健太いのちの教室の田村孝行さんと、南三陸町議会員であり南三陸ホテル観洋で語り部ガイドを行っている伊藤俊さんのお二人をお招きし、開催いたしました。田村さんは、自身がBCPの作成・普及を促した企業が能登半島地震において被害規模を抑え、本来の業務を早期に再開させることが出来たという事例を紹介されました。伊藤さんは、宿泊施設という立場から企業と地域の関係づくりをしている中で、「語り部バス」という対外向けの震災伝承・防災活動を行っていることが、地域活性化につながっているとお話されました。それぞれの視点から活動をお話され、改めて日々の備えについて参加者の方々に問いかける機会となりました。
第16回/
2月17日開催 いわぬま震災語り部の会 青木孝豪さん
昨年度発足したいわぬま震災語り部の会・副会長の青木さんは、震災当時は仙台市の公立高校で教員を務め、地理を担当する中で生徒たちへの防災教育を実施していました。しかし、震災では1人の教え子を津波によって失い、その後悔から語り部活動を始められました。講話では、自身の活動だけでなく津波からの多重防御も目的として整備された公園である「千年希望の丘」のことなど、岩沼市の震災による被害から復興に至る道のりを詳しくご紹介いただき、今の子どもたちに伝えていることや、防災・減災のためにできる様々な工夫についてもお話され、講話に参加された方からは多くの質問が挙げられました。
第17回/
3月9日開催 中野ふるさとYAMA学校 佐藤政信さん
仙台市宮城野区の中野・蒲生地区で語り部活動や地域の記憶の継承に取り組んでいる佐藤さん。講話では、自宅が津波により全壊したため、避難所を転々とし仮設住宅に入居するに至った自身の被災体験や、工業用地としての利用が決まり戻れなくなってしまった地区の歴史の伝承、「日本一低い山」である日和山を中心とした地域コミュニティの活動など、震災から様々に変化してきた中野・蒲生地区の歩みを丁寧にご紹介いただきました。「歴史を学ぶこと」「地域を知ること」がいざという時に命を守るのだという言葉もあり、経験を後世に伝えることの重要性を改めて感じることのできる講話となりました。
第18回/
3月16日開催 命のかたりべ~語り継ぎプロジェクト~
穂積尚子さん/堀口和泉さん/髙橋匡美さん
今年度最後の開催となった今回は、「命のかたりべ」として石巻市を中心に活動されている髙橋匡美さんと、髙橋さんの体験を語り継ぐことに取り組んでいる東北大学2年の穂積尚子さん、堀口和泉さんに講話をいただきました。講話では、石巻市南浜町にあったご実家で、津波によりご両親を亡くされた髙橋さんの語り部と共に、大学の授業を通してお話を聞いた2人が、自身の震災当時の経験や語り部を受けたことによる変化も交えて髙橋さんの被災体験を語り継ぎました。髙橋さんは参加者からの「”語り継ぎ”をされることにどういった心境を抱くか?」という質問に対し、「語り部はどこの地域でも高齢化が課題。自分がいなくなったら…と考えていたところで、経験を語り継ぐ人がいることは私の希望そのものだ」と答えられ、2人も「”語り継ぎ”に取り組む中で、自分の伝えたいことも見えてきた。匡美さんが語り部を通して伝えている「今を生きる」というメッセージを、これからも大事にしていきたい」とお話されました。