カテゴリー:伝承を支える

2021年度震災伝承調査(速報・第2弾)

東日本大震災の伝承活動の現状と課題の共有、防災・減災活動の活性化を目的に、「2021年東日本大震災伝承活動調査」を行いました。
2月に公開した受入人数に続き、今回は、アンケート結果も含めた速報を掲載いたします。

今回は「速報」の公開で、全ての団体・施設のご回答を反映したものでありませんが、最近の伝承活動の概況を理解できる内容となっています。

大変お忙しい時期に、今年も調査に協力してくださった皆さま、誠にありがとうございました。
この調査が、各地で伝承に取り組む皆さまの活動に役立てていただくとともに、多くの方に伝承活動の現状を知っていただく機会になれば幸いです。

協力:東北大学災害科学国際研究所佐藤翔輔准教授
   3.11メモリアルネットワーク
一部補助:復興庁被災者支援コーディネート事業

【参考】2022年10月に詳細な調査報告書を発行いたしました。以下のブログから、報告をダウンロードいただけます。
「2021年伝承活動調査報告書を公開しました」


 

2021年度震災伝承活動の概要

2021年の震災伝承活動の特徴を6つ掲載いたします。

 

1)新型コロナの影響続く

○来訪者数の推移

・震災学習プログラム・伝承施設ともに、受入数は前年より回復したものの、コロナ前と比べると、依然低い水準にとどまっている。

※2019年途中~2021年における複数の大型施設開館による増加が、コロナによる減少を相殺している面がある。

 

○予約キャンセル数

・震災学習プログラムでは、半数以上の団体で、前年よりキャンセル数が増加した。
(※2020年調査では、キャンセル人数は53,252名以上(26団体の合計))

 

震災学習プログラム77,168名以上(2021年1〜12月/15団体の合計)

・キャンセル数が、実際の受入人数の倍以上になった団体もある。

 

○関係者の声

・影響の大きさについて伺ったところ、次のような声が寄せられた。
―修学旅行、企業研修など大型予約のキャンセルが相次いだ。
―教育旅行等の度重なる延期、中止、コース変更等により実数以外の影響が大きいと想定される(予約を受けられない状態で断っているケースなど多数有り)。
―まん延防止等重点措置や首都圏等での緊急事態宣言、県独自の緊急事態宣言の影響が大きかった。
―団体旅行が増える9月にコロナの状況が悪化し、緊急事態宣言が月末まで延びたことで大量のキャンセルが出た。
―2021年は2020年とは異なり、すぐに中止するのではなく、延期を希望する学校が増えた。
―予約受付自体が無かった。

 

2)オンライン語り部・ガイドの拡大

○オンライン配信の実施状況

・2020年以降、オンラインを通じた伝承活動も行われるようになった。震災学習プログラムを実施する15団体のうち9団体、18の伝承施設のうち9施設が何らかの形でオンライン配信を実施している。

 

○オンライン配信参加者数の増加

・2021年には、震災学習プログラム41,418名・震災伝承施設5,947名の計47,365名(10団体・4施設の合計)が、オンラインで震災学習に参加。2020年の参加人数と比較し、9倍以上の規模となった。

 

○関係者の声

・オンライン震災伝承を実践している団体に、効果と課題を伺ったところ、次のような声が寄せられた。

効果

―新しい層の参加につながった(特に、これまで来館が難しかった遠方の方や、修学旅行以外の学年の児童生徒など)。
―一度の配信で、多くの方にお話を届けられるようになった。
―現地を訪れるのが難しい中での新しい関係づくり、これまでの関係維持につながった。
―現地を訪れる際の事前学習としても活用されるようになった。

課題

―参加者の反応や会場の雰囲気がつかみづらく、話が伝わっているかどうかが分からない。また、状況に応じた話し方や内容の調整ができない。
―現地の状況を五感で感じることができないため、臨場感に乏しく、震災当時の状況が伝わりづらいと思われる。
―開催時間や希望内容が多様で、事前調整や資料作成に時間がかかる。
―オンライン学習で終わらず、現地に足を運んでもらうために工夫する必要がある。
―配信のための人員確保、機材や通信環境の整備、技術的な習熟が必要である。
―相手方の通信環境によるトラブルも起こり得る。
―オンライン対応可能なことを周知、広報する必要がある。
―お金や時間を使って依頼する価値があると感じてもらうために質の高い配信にする必要がある。

 

○今後の見込み

・実施した/したいと回答した団体・施設の約70%が、今後のオンライン伝承の見通しについて、「更に拡大する」「どちらかというと拡大する」と回答した。

 

3)修学旅行が10〜12月に集中

・例年と比較し、10〜12月が特に多くなった。新型コロナウィルス感染症の緊急事態宣言の解除以降に受入れ人数が非常に多くなり、年間の約56%がこの3ヶ月間に集中した。
・2022年1月以降、緊急事態宣言は出ていないものの、オミクロン株の影響により再びキャンセルが相次いでいる。

 

4)高校生以下の増加

・コロナ禍の2年間は、受入全体に占める教育旅行(学校の修学旅行など)の割合が大きくなっていた。
・震災学習プログラムでは、コロナ前よりも全体数は減少したものの、高校生以下の参加者数は増加している傾向が確認された。
・震災学習プログラム年間の高校生以下受入割合が9割を超える団体もあった。

※以下のグラフは、コロナ前からの変化を捉えるために、2018〜21年の高校生以下人数をご報告いただいた4団体・3施設の人数データのみで計算しています。全協力団体・施設の数値でないことにご注意ください。
団体:三陸鉄道、石巻観光ボランティア協会、大川伝承の会、3.11みらいサポート
施設:KIBOTCHA、震災遺構 仙台市立荒浜小学校、千年希望の丘交流センター

・新型コロナウイルスの影響で、海外や京都、沖縄などからの方面変更の事例が急増し、「初めて訪れる学校の修学旅行が増えた」という声も聞かれるが、代替旅行先としての一過性も懸念される。

 

5)伝承施設の新設と閉館

・東日本大震災発災から10年が経過し、復興事業が終了するとともに、地域の状況も変化してきた。2020〜21年の2年間に、3県で10以上の伝承施設が新規オープンした。
・一方で、この数年、閉館する施設も出てきた。ただし、いずれの来館者減少等の理由ではなく、近くに他の伝承施設ができた等の地域の環境変化に伴う閉館、復興関連事業の終了に伴う計画通りの閉館である。

新規オープン
閉館
2020年
名取市震災復興伝承館
いわき震災伝承みらい館
山元町震災遺構 中浜小学校
東日本大震災・原子力災害伝承館
つなぐ館
2021年
MEET門脇
みやぎ東日本大震災津波伝承館
石巻市震災遺構 大川小学校
大船渡市防災学習館
震災遺構 浪江町立請戸小学校
南三陸ポータルセンター
2022年
石巻市震災遺構 門脇小学校 ※4月予定
南三陸311メモリアル ※10月予定
双葉町ふれあい広場
石巻市まちづくり情報交流館(中央館)

6)施設整備に伴う回遊ルート・連携体制の深化

・この11年間、各地で震災伝承活動が継続され、震災遺構を含む伝承施設の整備が進む中で、特に、同一自治体内など近隣同士での連携の取り組みが深化してきた。
・連携の事例として、次のような回答が寄せられた。
【宮古市】 医療関係専門学校の教育旅行プログラムについて相談を受け、宮古市と連携し、震災学習列車乗車後に田老地区で「応急仮設住宅における医療・保健活動例」を紹介するプログラムを開発し提案、1000名規模の誘客に成功した。(ただし、新型コロナ拡大によりほとんどキャンセル、実績は80名にとどまった。)/三陸鉄道
【陸前高田市】 3クラス以上規模の教育旅行受入れの際、東日本大震災津波伝承館(県営)と連携してローテーションで行程を組んでいる。/陸前高田市観光物産協会
【石巻市】 大川伝承の会が大川小学校を案内した後に、本団体の施設を使ってPCでレクチャーをされている。年間5回程度。/雄勝花物語
【石巻市】 近隣施設との、学校の新任教員受入れ自や、地元小学校での防災学習開催時の役割分担。修学旅行受け入れ時、県の施設と民間施設の両方に立ち寄る機会づくり/3.11みらいサポート
【仙台市】 「せんだい3.11メモリアル交流館」及び「震災遺構仙台市立荒浜小学校」で定期的に合同勉強会を開催し、連携している。/仙台市
【山元町】 地元の語り部団体と連携しガイド活動を行っている。/山元町震災遺構 中浜小学校
【福島県】 いわき震災伝承みらい館で行われた企画展の一環として、「コミュタン出張ラボ」を実施。東日本大震災・原子力災害伝承館にて「出張コミュタンat東日本大震災・原子力災害伝承館」を実施。/コミュタン福島

 

 

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