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【開催報告】R7年度第3回3.11トークセッション

3.11を学ぶ

11月9日(日)に、今年度3回目の「3.11トークセッション」を開催いたしました。

R7第3回3.11トークセッション

「3.11トークセッション」は、県内で伝承活動を行っている方々をゲストに招待し、県内各地の被災の実情や教訓に触れ学びを深めるとともに、伝承者の相互理解を深める機会を作り出すことを目的に、昨年度より開催しています。今年度も、宮城県による「令和7年度 みやぎ地域復興支援助成金」のご支援を受けて、全5回の日程で開催できることとなりました。

第3回目の今回は、「地域の記憶を演劇で語り継ぐ 被災地の人々と演劇人の協働」と題して、3人のゲストをお招きしました。

今回のゲストは、演出家で一般社団法人東北えびす理事の髙橋菜穂子さん、俳優でせんだい3.11メモリアル交流館の芝原弘さん、そして仙台市荒浜にある「海辺の図書館」の開設者で「深沼ビーチクリーン」の代表も務める庄子隆弘さんです。

仙台市東部沿岸地域の伝統的な暮らしや昔話の記録に着目してその舞台化に挑戦したこの方々が、半年にわたる共同作業を振り返り、演劇で地域の記憶を語り継ぐことにどんな意義があるのかを語り合いました。

「Voice 仙台市東部沿岸地域の伝承と物語」公演
提供:公益財団法人仙台市市民文化事業団

2024年3月、仙台市宮城野区文化センター・パトナシアターで、1つの演劇作品が上演されました。題して「Voice 仙台市東部沿岸地域の伝承と物語」。
仙台市の沿岸部は東日本大震災で大きな被害を受け、多くの地区で居住ができなくなりました。しかし、震災前から住民の人たちが地区を挙げて調べまとめてきた家庭料理や祭りなど伝統的な暮らしの姿の記録、歳時記、昔話や言い伝えが、写真集や冊子として数多く残されていました。
この演劇作品「Voice」は、これらの記録資料の価値に着目した演劇関係者が、地域の人たちと協働して作り上げた作品です。
今回は、ゲストの方々に作品上演までの創作の道のりを振り返っていただき、この作品作りに関わったことによって、皆さんの心にどんなことをもたらしたのかを語り合っていただきました。

はじめに自己紹介として、登壇者の皆さまから普段の活動と「Voice」にはどのような立場で参加されたのかをお話しいただきました。

庄子隆弘さん
庄子隆弘さん

庄子隆弘さん
荒浜の自宅跡地で「海辺の図書館」という私設図書館を運営しています。人が集まれる場であり、地域の歴史、伝承、文化の記録を伝えていく場所です。「Voice」では地域の記録など資料を提供するアドバイザーとして、また、聞き取り調査に協力してくれる地元住民の方々のコーディネーターとして参加しました。

髙橋菜穂子さん
髙橋菜穂子さん

髙橋菜穂子さん
一般社団法人東北えびすという団体で、仙台市を拠点に演劇や朗読のイベント制作、上演を手掛けています。
本日ご紹介する「Voice」では講師としてキャスティングから構成、演出まで、運営全般を担当しました。

芝原弘さん
芝原弘さん

芝原弘さん
石巻の出身です。東京の大学で演劇を学び、卒業後も東京で演劇活動を行っていましたが、2019年に宮城県にUターンし、今は仙台と石巻を拠点に演劇活動を続けています。2020年にせんだい3.11メモリアル交流館のスタッフとなって今年で6年目です。「Voice~」には2021年から俳優として参加しました。

トークセッションを始める前に、この「Voice~」とはどんな作品なのかを知っていただくため上演記録動画のダイジェストをモニターで上映し、演出した髙橋さんに解説していただきました。1時間を超える作品のため、前半と後半の2つに分けて上映しました。

「Voice 仙台市東部沿岸地域の伝承と物語」公演
提供:公益財団法人仙台市市民文化事業団

前半で上映されたのは、仙台市東部沿岸地域にある高砂、七郷、六郷の各地区の由来と特色を地元の神社の狛犬たちが語るシーン、小学校の授業で行われていた防潮林の植樹、昔の子どもたちのお手伝いの様子の場面でした。

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※動画はせんだい3.11メモリアル交流館の公式YouTubeチャンネルで公開されていて、全編をご覧いただけます。

演劇による震災伝承事業 演劇公演
「Voice-仙台市東部沿岸地域の伝承と物語-」【2023年度】
https://youtu.be/sUmYXOkxAK4?t=0
主催:仙台市青年文化センター(公益財団法人仙台市市民文化事業団)、仙台市

若者たちが挑んだワークショップ&演劇公演 半年間の記録
https://youtu.be/rrxKVGaSCbM?t=0

ここからは、「Voice~」の上演まで皆さんがどのように取り組んでいったのか、お聞きしました。
芝原さんによれば、この演劇作品に先行する別の企画があったそうです。

芝原さん
始まったのは2021年度です。せんだい3.11メモリアル交流館の企画展として開催されました。震災で人が住めなくなった地域にはたくさんの昔話があって文字による記録はありますが、それらが実際に語られる機会はあまりありません。伝承とは元々は耳から聞く“語り”だったので、語られることが無くなると、やがて失われていってしまいます。そこで、あらためて本来の形に戻して伝え、広めたいという企画でした。2023年3月にはリーディング作品に再構成して、仙台市市民文化事業団が運営する仙台市青年文化センターでプロの俳優によって上演しました。2023年度に、青年育成事業として25歳以下の市民を対象に演劇製作を行うことになりました。参加メンバーが東部沿岸地域を視察し、文献を調べ、住民の方からお話を聞いて題材を集め、共同で台本をつくり、上演するという企画です。

髙橋さんには、演者たちの集団づくりから題材の調査、台本指導、稽古、演出まで、講師としてどのようにメンバーを引っ張ったのかをお聞きしました。

稽古風景
提供:公益財団法人仙台市市民文化事業団

髙橋さん
9月にスタートして翌年1月に中間発表会、3月に本公演を行いました。参加メンバーは公募で集まった10代・20代の若い人たちで、演劇は初めてという人が多かったです。発災時はまだ幼かったり県外出身だったりで、震災の記憶が薄いという人もいました。参加の動機はそれぞれでしたが、共通していたのは「宮城に暮らしているからには、東日本大震災のことを全く知らないままではいたくない」という思いでした。皆、この企画に取り組むことに対して覚悟ができていました。メンバー同士はほぼ初対面で、ゼロからの人間関係づくりでしたが、初回からノリが良く、皆で声を掛け合って仲良くなっていました。2回目から4回目には沿岸各地のバスツアーと聞き取り調査、資料調査を行い、それ以降は台本作り、稽古と進みました。3グループに分けて高砂、七郷、六郷の3地区に振り分け、それぞれにベテラン俳優陣がサポーターとして参加しました。

台本づくりの参考となった郷土資料について庄子さんにお尋ねしました。

庄子さん
例えば荒浜の歴史や文化について調べようと思っても、『宮城県史』や『仙台市史』などの歴史書にはほとんど記述されておらず、まとまったものとしては仙台市歴史民俗資料館の報告書がいくつかあるだけでした。震災後には新たな動きがあって、昔の生活や食文化について地域の人たちに細かく聞き書きを行った『あの時を忘れない―震災の記憶 荒浜の記憶編』が発行されました。また、せんだい3.11メモリアル交流館が2021年3月に発行したハンドブック『海辺のふるさと』は、仙台沿岸10地区に残る史料と新たに行った聞き取りをまとめたもので、「Voice」の制作ではメインの資料として参加者全員に配付されました。

髙橋さん
冊子としてまとまったものだけではなく、断片的な資料のコピーなどもありました。それらを各自が読み込んで、気になった情報やエピソードがあれば皆でシェアしました。

地区の人たちが、台本づくりのための聞き取りに協力してくださったそうですね。

庄子さん
荒浜の場合、海辺の図書館を一緒にやっている佐藤豊さんは80代で、話すのはかつて漁業が盛んだった頃の思い出。50代の私なら仙台市唯一の海水浴場として夏はとても賑わったという記憶と、世代によっても語る内容は違います。幸い、かつて豊かだった海の恵みや松林で採れたキノコの話や神社の話を知っている人たちがいらっしゃって、集団移転先に転居した今も語り続けています。聞き取りにはこうした人たちにも参加してもらいました。

髙橋さん
文献を読むことも大事ですが、生の声を聴くということは圧倒的なインパクトがありました。参加メンバーが最終的に選び出したエピソードも、直接お聞きした話が多かったです。体験談は話し手の実感がこもっていて、文字には無い力を感じました。

こうした資料の読み込みや聞き取り調査、そして台本作りに、メンバーはどんなふうに取り組んでいましたか?

髙橋さん
中間発表のための台本はグループごとに作りました。集めたエピソードから自分たちが演じたいものを選んで書いてもらいました。各グループを担当した俳優3人には、あくまでも調整役として各グループをサポートしてもらいました。

芝原さん
メンバーに提案したのは、「アドバイザーの方々に聞き取りをする時に、思い込みでためらうのはやめよう」ということでした。聞きたいことがあるのに、「これを聞いたら失礼だろうか」「これを聞いたら傷つけてしまうだろうか」といった思い込みのために聞きたいことを聞かないのはよくない。辛い震災体験に触れることもあるだろうけれど、わざわざこのために時間を割いて協力してくださるアドバイザーの方々は君たちの思いを受け入れてくれるはずだから、と。もしも誰かを傷つけてしまうような話題に行き当たったとしても作品に取り上げなければよいので、思い切り甘えて、たくさん聞いてみよう、恐れずに想いをぶつけてみよう、と。
また、メンバーたちは、自主的に松っ葉拾いイベントに参加したり、畑で農作業している人に声を掛けて話を聞いて来たりと、もっともっと知りたいという気持ちを日に日に強くして地域の人たちに向きあっていました。

髙橋さん
中間発表は、青年文化センターの交流ホールに地域の方々など関係者をお招きして、台本を持った朗読劇のスタイルで上演しました。演出やサポーターからは敢えて口を出さないで、メンバーの思う通りに演じてもらいました。

庄子さん
観る前は、自分たちが彼ら彼女らに話した物語がどのような演劇として表現されるのかが気になっていましたが、実際に演じている姿を観ると、何かを懸命に表現しようとしていることがしっかりと伝わってきました。エピソードを提供した私たちを前に演じるのは怖かったと思いますが、後で感想を聞いて安堵したというか、自信を付けた様子が見て取れました。

ここで後半を上映。フィナーレは、震災のために中止となった春祭りが若い人たちによって復活し神輿が練り歩くシーンでした。

神輿のシーン
提供:公益財団法人仙台市市民文化事業団

髙橋さん
この神輿は地域の人たちからお借りしたものです。中間発表では段ボール製の手作りお神輿を担いだのですが、観ていた高砂の方から「神輿ならあるよ」と。それで、本番ではお神輿がラストシーンになったのです。

「地域の記憶を演劇で語り継ぐ」試みは、成功したと思いますか?

芝原さん
メンバーのほとんどは直接的な被災の記憶がありません。メンバーには、震災を直接描いた物語ではなく、被災した地域の人たちから教えてもらった昔の記憶を物語にしてもらったのですが、その過程で彼ら彼女らの中に「あの地域とつながった」という何か大きなものが生まれたと思います。その上で、人前で上演して仙台市沿岸地域のことをたくさんの人々に伝えてくれたことで、自分が生まれたわけでもない知らなかった土地、他人ごとだった地域を背負ってくれて、自分の中で故郷のような場所にしてくれたのかなと思い、参加してくれた13人の若い俳優たちには感謝しています。こうした機会を今後も広げていきたいと思っています。

髙橋さん
成功したのかどうかは、100年経たなければ分かりません。100年後の沿岸地域がどうなっているのか、震災伝承がどうなっているのかを見定めなければ何も言えないと思います。
私自身は津波の被害は受けていません。2011年以降も演劇はやっていたけれど、震災そのものに演劇で目を向けることが正直辛く、震災に対しては何もできませんでした。情けない、やりきれない、でもどうしたら良いのか分からない。そんな時にこの話をいただいて、こういう形だったら私にもかかわることができるかもしれないと思い、お引き受けしました。それがスタートです。誰かのためではなく私自身のために、私自身ができることをやっていく。ただ、始めたからには途中で止めない。続けていく。そう思って続けてきました。
若い人たちを見て発見したこと、それは皆がいつも新鮮な気持ちで地域と出会っていたこと。そして、震災がテーマだったので、腹を決めて真剣に向き合わなければ申し訳ない、という覚悟を全員が持っていたこと。
半年間、真剣に向き合い続けてきたことは、一人一人の中でとても大きなものとなったようです。また、芝原さんも言っていたように、彼ら彼女らにとってこの地域は一生スルーができない地域になったのではないでしょうか。私がいなくなった後でもメンバーの誰かがこうした取り組みを続けてくれるのなら、取り組みは成功と言えると思います。

庄子さん
われわれ被災した地域の人間にとって一番傷つくのは、非難されることではなく、無視されること、荒浜という地域が無かったことにされることです。若い人たちが演劇を作っていく中で、果たしてこの地域に対して関心を持ってもらえるのだろうか、という心配が最初はありました。
でも、いざ始まってアドバイザーを務めたりワークショップに参加したりする中で、被災した我々と演じる俳優たち、間に入ってコーディネートや演出をする人たちがとても良い形で連携して一回限りのステージに向かっていく様をすごく感じました。
こうしたきっかけが演劇だけではなくいろいろな形で種として蒔かれています。これらによって100年後200年後に荒浜や東部沿岸部の震災や、地域の生活・文化が伝承されていくことに希望をもっています。

「Voice」は2023年度まで仙台市市民文化事業団の事業として実施されました。残念ながら仙台市の事業としてはいったん区切りがついてしまいましたが、その後、新たな展開があったそうですね。

髙橋さん
2023年度で仙台市の予算が打ち切りとなった時はショックでした。いろいろな方に継続を訴えたもののかなわず、2024年度は一般社団法人東北えびすの独自事業として取り組みました。とはいうものの予算面では厳しく、そうかと言って震災伝承がテーマの作品を通常料金で上演するのは自分の中でどうしても腑に落ちず、何か良い方法は無いかと悩んでいました。
そこへ、若林区藤塚の災害危険区域内で前の年から営業を始めていたアクアイグニス仙台さんという商業施設から、「藤塚という地域のことを何とかして発信し伝えていきたいので、一緒に何かできないか」というお誘いが持ち掛けられました。東北えびすでは「仙臺まちなかシアター」という、食事とセットの朗読劇を飲食店で上演する企画を手掛けているので、そのシリーズの中に位置付けて開催しました。シェフの方はとても前向きで、藤塚に伝わるレシピを元に試作を重ねてイタリアンにアレンジしてくださいました。油揚げを煮た料理なのに、食べてみたらイタリアンだ! みたいな。

「Voice」の石巻編も上演しましたね。

髙橋さん
宮城県の「令和6年度みやぎ震災伝承連携推進事業補助金」に採択されたことで予算の目処が立ち、伝手のある石巻でもやってみることに決めました。芝原さんが石巻のご出身ですし、石巻市中心部で劇場を運営するシアターキネマティカ(石巻劇場芸術協会)さんとは以前から交流があったので。会場は震災遺構門脇小学校をお借りしました。終演後には石巻南浜津波復興祈念公園一帯を歩く「上演ツアー」も行い、最後はまねきショップでお茶をいただきながら門脇の地区長で地域の「生き字引き」の本間英一さんのお話をお聞きしました。

芝原さん
石巻でもメンバーは公募で、5名が参加しました。高校生が2人、震災後に石巻に来た社会人が2人。「今住んでいる石巻の歴史のことや震災のことを知る機会がこれまでは無かった。演劇を通じて学びたい」と参加してくれました。自分が住んでいる地域のことを知りたいという方は多いと思います。地域の方から話を聞いてそれを物語にして伝承していくという「Voice」の手法は、いろいろな地域で応用が可能だと思います。

最後に、庄子さんにお聞きします。今、「荒浜磯獅子踊」の復活に取り組んでいるそうですね。

庄子さん
今日のこの衣装、これは荒浜でかつて行われていて100年以上前に途絶えてしまった「荒浜磯獅子踊」の衣装です。実は「Voice」が無ければ、この荒浜磯獅子踊は復活できなかったんです。
荒浜磯獅子踊は先ほど回覧した『仙台市荒浜の民俗』という本でも紹介されているものの、実際に観たり踊ったりしたことのある人はおらず、わずかに仙台市歴史民俗資料館の資料などに記録が残っているだけです。震災後、この磯獅子踊を何とかして復活できないかという声はあったのですが、誰も観たことのないものをどうやって復活させたらよいのか行き詰まっていました。
それが、この「Voice」の最初の頃の打ち合わせの席の余談で横笛奏者の山下進さんが、「それ、復活できるかもしれませんよ」と。郷土芸能には地域の繋がりというものがあって、”荒浜磯獅子踊は名取の熊ノ堂地区に伝わる獅子踊の系統だから、辿って行けば何か手掛かりがあるかもしれない”とアドバイスをもらったのです。これが、せんだい3.11メモリアル交流館や仙台市歴史民俗資料館、音楽の人たち、荒浜の仲間たちと一緒に復活に取り組もうという流れができたきっかけでした。
Voiceと郷土芸能には直接の繋がりは無いものの、人と人の繋がりによって思ってもみなかったような新たな展開がありました。今日は、こうした展開に対するリスペクトを込めて、この衣装で登壇しました。

荒浜磯獅子踊
提供:庄子隆弘さん

仙台市東部沿岸地域の方々と演劇関係者の方々が協働によって得た成果は、これからの震災伝承を考える際の一つのヒントになりそうです。
 ご登壇いただいたゲストの皆さま、会場にお越しいただいた皆さま、ご参加いただきありがとうございました。

【次回予告】
第4回3.11トークセッション
「震災に向き合うことを支えた教員とその生徒」
12月14日(日) 13:30~14:50
登壇予定:制野俊弘さん 小山 綾さん 瀬成田実さん 若生遥斗(3.11メモリアルネットワーク)
ファシリテーター:徳水博志さん